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バブル崩壊の後遺症が自動車業界にも出始めたのは1996年ごろであった。開発の見送りや、時代の読み違えが3年後、4年後に商品力となって結果が出始め、いわゆる勝ち組と負け組みというかたちで浮き彫りになってしまったのだ。何社かがグループ再編と言うかたちで勝ち組の傘下に組み入れられたのは、みなさんのご記憶にも新しいと思う。
マツダもSUVブームやミニバンの流行を逃し、この時期どん底状態に陥りフォードからの資本の増資を受け入れた。デザインもかつての精彩を欠き、しばらく低迷していたが、しかしここへ来て、奇跡の復活を遂げつつある。
1996年ごろから、マツダが本来得意としたボディー剛性アップ、躍動感のあるデザインなど地道な高品質を目指したクルマ作りが、自動車先進国であるヨーロッパで着実に顧客をふやし、日本でもようやくお客様に理解され始めたのである。
アテンザ、ニューMPV、ニューデミオ、アクセラと、統一感のあるデザインと性能面での成熟した質の高さの実現によって、最近では『ブランド再生』として注目を浴びるに至った。喜ばしいことである。

そうしたマツダ車のなかで、今回取り上げるベリーサは、現在ヒット中のラインナップとは一味違った狙いどころを目指しているようだ。世界唯一のロータリーエンジン・スポーツカーRX-8も、モードの異なる造形テーマによって、その「特別」である存在感をアピールしている。ベリーサもラインナップから独立した造形テーマでデザインされているが、なにか特別な主張があるに違いない。さっそく観させていただこう。

距離を置くとさほど感じないが、近付くとけっこう大きな車である。背の高いショートワゴンといった感じで小型枠の全幅ながら全長3975mm、高さ1530mmとゆとりのサイズである。
第一印象はSUVのようにごつい感じもするし、はっきり言って「おまえはなにものだ?」と問いかけたくなる不思議な雰囲気のクルマである。最近のスラっとしたクルマと比べると闘牛のように威圧感のあるデザインなのだ。
最近のマツダ車デザインに共通している、シャープな顔つきやボディーラインはまったく取り入れず、あえてトレンディーな要素を排除しているようである。解る人には解るデザインを目指していると思われ、「へん」とか「ふるくさい」とか「ごついのが気に入らん」とか、いろいろ否定の言葉はあるが、理解してくれない人がいることを承知で、強い個性を提案している。デザインに自信のあるマツダならではのチャレンジブルで、なおかつお客様に“タカピー”な態度のデザインなのである。
余裕のトヨタは時々こうしたディスティンクティブ・デザインにチャレンジするし、日産も代表的なクルマにキューブ・キュービックがあり、これは異例の大成功を収めている。それらと比較し「変り栄え」では控えめではあるが、逆に、良いクルマとは何かを良く知ったマツダならではの、「びみょー」な挑発に、私たちクルマ好きは過剰に反応してしまうのかもしれない。日本カー・オブ・ザ・イヤーの特別賞(ベストバリュー賞)を受賞している。

デザインの開発テーマは「シック、モダーン、ハイクオリティ」とのことで、幅広い年齢層の上質を求める方たちをターゲットとしている。試乗車のボディーカラーもカーディナルレッドマイカという深みと艶のある落ち着いた赤色だ。全体のシルエットはオーソドックスである。フォード・フォーカスのようにルーフ後方を低くするのが最近の常套手段だが、あえて水平に近い。高いボンネットから、そのまま水平にリアに続くしっかりと通ったショルダーラインが印象的だ。その為ベルトラインは高くなり、サイドウインドウは上下幅が小さい。近くから見ると、窓の小さいこの雰囲気は1940年フォードV8/85デラックス4ドアセダンとか、1949年カスタムV8ステーションワゴンと良く似ているのである。まったくの憶測ではあるが、マツダには古い車に詳しいデザイナーが沢山いる。この年代までさかのぼって、古くて新しいクルマの価値をおさらいした?ということはまず有り得ないとは思うが、このエクステリアデザインをみると、不思議な懐かしさが感じられ、つい深読みしたくなってしまう。
クルマ好きならすぐに気づくのが、ポルシェ・カイエンにフロントコンビネーションランプのデザイン処理の特徴が似ていることである。またショルダーに張りを持たせた面造形の考え方も近いところがある。しかし、独創的な仕事をしようとする意欲的なデザイナーの感性が、偶然にも一致することは自動車デザインの世界ではよく起こることなのである。ちなみに2004年デトロイトショーにMXマイクロスポーツの名で、ほぼ今のデザインでベリーサが発表されている。

細部のデザインで特筆に価するのは、ヘッドランプとテールランプがマツダ車の中ではナンバーワンの良い出来である。特にヘッドランプはニッポン車の中でもトップクラスの美しい仕上がりだ。反射鏡のアーティスティックなデザインは、ギーガーがデザインしたエイリアンの巣を思い出させるおどろおどろした雰囲気を巧みに使い、ネオ・ゴチックのアート感覚とも共通する精神性すら感じてしまう。少々入れ込み過ぎかもしれないが、同じデザイナーとして、変わった美しいものを造り出す精神的疲労度を知っているからこそ、あえて賞賛したいのだ。逆に差しさわりの無いカタチの提案はとても楽なのである。おだやかなクルマの顔にもかかわらず、ヘッドランプ内部のドラマチックな光らせ方の功績によって、知的な強さを表現することに成功しているように思える。また、ベリーサのヘッドランプは車の割りに少し大きい。だから遠くから見るとボディーが小さく感じるのかもしれない。BMWのミニと同じレトリックである。

 

 

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