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car design michelin CHRYSLER 300C

欧米の自動車産業の歴史を振り返ると、大恐慌や戦争バブルの浮き沈みのなかで、業績の良いメーカーが立場の弱いメーカーを買収、また体質強化やライバルに対抗するため合併を繰り返し、どんどん巨大化していった。わが国のIT業界のホリえもんのようなことは、欧米の自動車業界では65年以上も前に経験済みなのである。

とくに自動車王国アメリカは、ドライな国民性という特質もあいまって、常に最先端の資本主義経済理論を実践し、こんにちまで食うか食われるかの熾烈な競争を繰り広げてきた。生き残ったのがゼネラルモータース、フォード、クライスラーの3社である。
クライスラーもかつては高級車メーカーとして君臨し、1947年頃のクラウン・インペリアルなどはキャデラックをしのぐ人気であった。しかし時代は移り変わって現在はダイムラー・ベンツと合併、名前もダイムラークライスラーと長ったらしくなってしまった。
今回とりあげたクライスラー300Cは、そうした合併後に開発されたフラグシップ・カーであり、パートナーのベンツ社のプライドからしても、気合の入ったクルマになっているはずである。
さっそく観てみよう。

全長5.020mm全幅1.890mm全高1.490mmのサイズを生かした大胆なデザインはいまどきの量産車には無い迫力があり、観る者を圧倒する。スゴイ押し出し感である。
こんな気合の入ったデザインは、ほんとうに久しぶりだ。発信するソフトウエアーが明確で、「こんなクルマにしたい」という造り手の創造力が光る。

では、その「こんなクルマ」について、詳しくご紹介するとしよう。1950年代に入ってからのクライスラーは、デザインで他社をリードしエポックメイキングなクルマを次々と発表した。1952年のギアがデザインしたC-200や、1955年のショーカーのファルコンは個性的なデザインで、当時の時代性の中ではずば抜けて先進的であった。絵空事の未来カーではなく、モノとして地に足が着いたアメリカ車らしいクオリティーの提案があったのである。
今回の300Cの心のよりどころは、まさにこの頃のクライスラー黄金時代のプロダクトであって、当時のアメリカらしい力強さを感じるデザインのエッセンスをアレンジし、リデザインし、明確に自分たちのアイデンティティーをカタチにしているのである。
コンテンポラリーな自動車デザインの定石をくつがえした立ち気味のフロントウィンドウと、当時のシルエットの特徴である上下幅の狭いサイドウインドウ、そして、当時の個性をモチーフにしたフロントマスクデザイン、圧倒的パワーで他を寄せ付けなかったHEMI エンジンの復活、狙いは明らかで、歴史と伝統の既成事実を全面に掲げ、ブランドの正統性を主張しているのだ。
前回取り上げたマセラティ・クワトロポルテと同様、デザインコンセプトに、過去の栄光という時間軸の物語性を付け加えたのである。これこそ、私が「THE MASTERPIECE」でも書いた、21世紀のモノ造りで最も重要な、ソフトウエアーの創造なのである。
クライスラー300Cのエクステリアデザインのレベルは高い。盛り込まなければならない要素を巧みにまとめていて、たとえばヘッドランプにしても1952年のショーカーC-200 の個性的な奥目の特徴を取り入れながら新しい感覚で仕上げているし、1955年のファルコンのラジエターグリルのイメージも再現している。さらには18インチの大径タイヤがおさまるホイールアーチは、ポルシェやBMWなら出来るだけタイヤとの隙間を小さく取るのに、逆にたっぷりと余裕を取ってSUVのようなしっかり感のあるふくらみを造形し、デコラティブなフロントデザインや強すぎるキャビン回りのイメージとのバランスを取っている。
ぎりぎりのところで踏みとどまっているが、サイズが大きいだけに、もうちょっとでシェビー・バンやダッジ・バンのセダンバージョン(そんなのは無いけれども)になるところであるが、デザインのセンスが良いため、新しい時代のアメリカンズカーデザインとして成り立っている。
筋道の通ったストーリーがあるこんな提案が、私は大好きなのである。

 

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