しかし、デザイン開発の仕事に就いてから注目し、フェラーリやメルセデスなどとはまた違った、クルマというものの一つの本質を見せ、考えさせられたモデルが“5”即ち“サンク”だ。クリオ、日本名ルーテシアの前身に当たる。丁度日本のメーカーも本格的に量産コンパクトカーに目を向け始めた頃だが、それまでの日本の小型大衆車やリッターカーなどのイメージが“安い”“可愛らしい”“若向き”“オンナ・コドモ”の域を出ないものであった。だが成熟した欧州市場では、コンパクトや経済的などの要素は商品性の一つであり、年齢や性別、あるいは基本的には経済力やステータスなどには関わりのないものである。 |
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その典型が“5”であり、十代の娘が乗っても七十過ぎの爺さんが乗っても全く違和感のない商品性はデザイン、機能ともにミゴトと思ったものだ。日本車が“ブリキバロック”と言われていた時代にである。そしてフラッグシップの“25”即ち“ヴァン・サンク”。僅かながらノッチのある上級セダンながら欧州では許される5ドア仕立てで、その空力に優れた端正なプロポーションは気品に満ちた個性を感じさせるもの。デザイン部門のモデルに運び入れて驚いたのは、バランスに優れた優雅なラインと思っていたボディが強烈な前後の絞りによって異様にすら見えたことだ。インテリアも個性と高質を兼ね備えた快適な仕立てだった。 |
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この後継がサフラーヌ、そして現在のヴェル・サティスとなる。それぞれにモダン化された魅力はあるものの、25のレベルの高さは一頭地を抜くものだろう。その後、アルピーヌ、フエーゴなどのユニークなスポーツモデルが出現したが何れも単発で終わった。また、量産モデルの多くは国営企業の体質を現すがごとく保守的な、まるでかつての日本車のような状況が続き、ブランド、そしてコーポレートの両イメージを低下させたことは否めない。 |
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